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能登の鰤漁(写真提供:㈱佐々波鰤網)ほれがいのある日本海の寒鰤鰤はあちこちでとれるが、ほれがいがあるのはやはり日本海の寒鰤と思う。晩秋の能登の海は、厚い鉛色の雲に水平線まで閉ざされ、時折、雲の切れ間か....
能登の鰤漁(写真提供:㈱佐々波鰤網)ほれがいのある日本海の寒鰤鰤はあちこちでとれるが、ほれがいがあるのはやはり日本海の寒鰤と思う。晩秋の能登の海は、厚い鉛色の雲に水平線まで閉ざされ、時折、雲の切れ間から光が切って落ちるように波間を照らす。波の響きと壮大な神秘的風景に飲み込まれそうな私に、地元の方は「やがて鰤越しのころになると」と暗示的に言った。鰤越し?日本海に間断なく雪が降り、寒雷が波を揺るがすほど海が荒れだすと呼び寄せられたように鰤が回ってくる。この気象現象を鰤越しと呼ぶ。定置網は磯から比較的真近にめぐらし、湾外からの鰤を待つ。凍る海から上がった鰤の美しさを何にたとえよう。一メートルもの紡錘形。背は緑碧、腹は銀色で二つの色の境を淡黄が走る。「おまえはどうして網に入ってしまったの」包丁を入れる時の複雑な気持ちといったら……。とても目を合わせられるものではない。しかしいったん始めてしまえば「海の申し子は余すところなく、手だてを尽くしていただきましょう」の気になる。まず、刺し身、舌にまつわる細やかで引き締まった脂の味は、どんなマグロも持たぬもの。翌日は大好物の〝かまの塩焼き?。辛口の熱燗で「明日死んでもよい」ほどにおいしい。一連の身をおろす仕事で、照り焼き、味噌漬けを、お配り用に段取った。あらはむろん、鰤大根・臓腑のすきやき、えらせんべいのことも聞いた。塩鰤は特に九州で尊ばれるが、かぶらずし、いなだ、巻き鰤は北陸の仕事。鰤をワカシの段階でとりすぎなければ、養殖せずとも日本中で少年の目の鰤に会えるのではないか。大人の食育辰巳芳子がつたえる母の味 Winter 2012 Fのさかな28