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Fのさかな18号 海鼠(なまこ) 2010 冬 page 27/40

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画を彫ってみたい。興奮のあまり体がブルブル震える衝撃的な出会いだった」。生きる上で喜怒哀楽が大事。そこで感じたことを版画で表現すると、棟方氏はいう。 その後「佐渡の農民版画」にも出会った。題材は升に入....

画を彫ってみたい。興奮のあまり体がブルブル震える衝撃的な出会いだった」。生きる上で喜怒哀楽が大事。そこで感じたことを版画で表現すると、棟方氏はいう。 その後「佐渡の農民版画」にも出会った。題材は升に入った小豆、山羊や鶏など農家で普段目にする物ばかり。「暮らしぶりを彫る。自分の求めるものはこれだ!と、ハッと目が覚めた」。鈴木さんの創作テーマが固まった瞬間だった。版画は省略の美 かつて多色刷り版画を彫っていたが、能登のモノトーンの冬景色に無限の色を感じて以来、版画は白黒と決めた。しかし、和紙の色には凝る。 「自分が描きたい物、感じた物を突き詰めて、削れる物はどんどん削って最後に残った物を彫る〝省略の美?だと思っています。」 普段はシナのベニヤを使い、細かい物を彫る時は山桜のベニヤ、彫りたい物で使い分けている。 「大きな彫り間違いは、初めからやり直しになるので気が抜けない。段取りよくしないと創作時間はどんどん無くなってくる。」そう語る鈴木さんの作業は手早い。 右手で刃先を板に固定し、右左自在に刃先を操るのは左の人差し指。ザクザクと軽快な音を響かせ作業が進む。彫りあがった板に、毛足の短い刷毛で墨を塗りつける。作品に合わせて選んだ和紙を被せ、バレンでゴシゴシこする。 こする前にヒョイとバレンで頭をなでた。髪の油は滑りをよくするのに丁度いいのだそうだ。和紙が動かないように固定して半面をめくってもう一度墨を塗る。和紙を戻してバレンでゴシゴシ。この作業を繰り返してビシッとしたモノクロ作品に仕上がる。何の迷いもない「オレの作品」の出来上がり。 「現在『農民版画家』を名乗る人を知らないので、能登の地でその領域を拓きたい。それが私の役割だと思っています。」 「能登は自然が豊かだ」。移住してきた人が口を揃えていうように鈴木さんもそういう。「古き良き時代の名残も感じるし、暮らしの中にある祭、行事、文化、歴史どれも魅力にあふれている。」と加えた。 鈴木さんの子どもの頃は、田畑が広がる田舎の景色が広がっていたそうだ。過密化の進む茅ヶ崎を離れ、能登へ来たもう一つの理由はここにもありそうだ。 鈴木さんは、今日も彫刻刀と鍬を使って「せんぐり、せんぐり」の日々を送っている。【のと木版画工房】〒929-2214 石川県七尾市中島町小牧ナ部103-1TEL/FAX 0767-66-6069<予告>Fのさかな19号(春)の能登のお買い物帖で、鈴木さんが育てた「能登ふるさと便」をご紹介します。お楽しみに!鈴木敏治・すずき としはる1945年神奈川県湘南・茅ヶ崎出身。能登との出会いは大学3年の夏。卒業後は茅ヶ崎市役所に就職。社会教育活動に従事。23歳で板画家・棟方志功と出会う。その後、佐渡の農民版画の影響などを強く受け、彫りはじめる。版画サークルに加わり、茅ヶ崎、新潟、滋賀、埼玉などで個展活動を展開。2004年、本格的に畑を耕しながら版画を彫る「農的生活」に専念するため能登に移住。2005年6月に現在の地に根を下ろす。農作業の傍ら木版画の会「木つつき」に月1回講師活動のほか、精力的に各種イベントに出展などをしている。左:鈴木さんがデザインした、特別栽培米「山田のいちばん星」のラベル。右:2011年版年賀状。前年の思い出を彫ってメッセージとして届ける。能登へ移住してから毎年能登の鳥をモデルにしている。下:刷り上げた作品の凝縮された鈴木さんの思いを解説する。毎日足を運ぶ段々畑人気のある作品「畑からは」27 Fのさかな Winter 2010